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乳がんの歴史

私の母は56歳の時に乳がんになった。


たまたま観ていたテレビの健康番組で乳がんについてやっていたという。

そして自分でタッチしてしこりのようなものに気が付いた。


それでも、すぐに病院に行くのをためらった。

呑気な母は「めんどくさい。様子みるかな」と。


しかし

その朝、よくある朝の情報番組の占いコーナーで

母の星座であるおひつじ座へのメッセージが

「思い立ったらすぐ実行!」だったからと結局すぐに病院に行ったのだ。


メディアのおかげで、早くがんに気付けた。

なんという単純というべきか、神のお告げというべきか。


がんは2㎝ほどだった。

母は全摘出を選択した。「もうおっぱいいらないしさ」

母はあっけらかんと言っていたが、本当は怖くて悲しかったろう。


手術は無事済んだ。

片方の乳房を丸ごと取った。


「執刀医からのお話があります。」と呼ばれ

私と妹が行ったところは

手術室の待合室というより手術室に向かう通路のようなところだった。


執刀医が持っていた銀のトレイの中には

取り除いた乳房があった。

乳首のついた乳房がそのままトレイに広がっていた。

執刀医はそれを手で持ってひっくり返した。

ひっくり返すといきなりそこにある肉の塊にメスを入れた。


腫瘍といわれるものをメスでほじくるように取り出して

赤い肉の色とは明らかに違う、黄土色のような、どす黒い2㎝以上あるものを見せた。

私は目の前が真っ白になって卒倒しそうになった。


医者にとってはただの肉の塊なのか。

当然見慣れた物だろうが、こちらとしてはさっきまで母の胸に確かにあった乳房である。

いろんな思いが渦巻いて、先生の説明もあまり耳に入ってこなかった。


その後1か月ほど入院したが、母はいつも明るくてポジティブな性格で

看護師さんとも仲良くなっていた。

がん患者とは思えないほどの明るさなので「見習いたい」と

周囲によく言われていたものだ。


ただ現実は、無くなった乳房、抗がん剤の影響

腕は上がらなくなり、髪の毛は無くなり、と辛くないわけがない。

それでも前向きにヴィッグを楽しみ、リハビリ!と言ってはゲーセンのメダル投入ゲームで気分転換した。

そんなこんなでがんは完治した。


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しかし乳がんは再発しやすいといわれている。

8年たってリンパに再発した。

安心したころに襲ってきたのだ。

そのリンパのしこりは表面に近かったため取り除いた。


それでも、再発したということは体の色々なところに隠れがん細胞がいるものだ。

次々出てきた。

背中の骨、取った側の胸に2つ。

その時に家族で主治医の話を聞いた。


あとは抗がん剤で凌いでいくしかない。

再発というだけでは余命も現時点ではハッキリとわからない。その人それぞれで

早ければ半年、抗がん剤を受けながら5年くらい働いてる人もいる。と言われた。

それはいつになるかわからない、母の死というものを

漠然と『覚悟』した。


それからは、飲む抗がん剤、時には点滴の抗がん剤を繰り返して

そのときから、今現在、8年経ってもうすぐ73歳だ。

再発の話を聞いてから、毎年のように「今年もお正月が迎えられた」

「今年も桜が見られたな」

今は「ランドセル買うまで生きていられるかな」と来年小学校に入学する孫の為に

ランドセル貯金を始め、毎日をかみしめて生きている。




とは言っても普通に暮らしている。

ツイッター始めたんだー」と言ってアナログの日記帳を見せてくる。

ツイッターだから誰でも読んでいいよ」といって朗読しはじめる。


普通に暮らしてるといっても

普通の72歳よりは疲れやすくて長くは歩けないし、皮膚の感覚がしびれたり

黒ずんだりと不具合はいろいろある。


あれから担当医も変わって3人目だ。デリカシーのない先生だと愚痴をこぼす。


腫瘍部分が外からも見てとれるようにかさぶたがひきつったようになってきている。

それを先生に言ったら

「手の施しようがありません」

「だんだんそこから腐ったような臭いがしてくるんですよ」って言われたらしい。

「もっと言い方ってあるよねえ。もう長くないと思って対応がいい加減なんだよ

前にも、『再発して8年も生きてる人、今まで見たことない』って失礼なこと言うんだよ」って。


たしかに。

人に対して腐った臭いって言い方失礼だろう。

年配者とか病気の人は、話を聞いてほしいっていう気持ちがあるのだから

なんでもきっぱり答えればいいってもんじゃない。


乳がんとのながーい歴史がある母と

40歳そこそこの医者の対応。


そうゆう私も、母の話を適当に聞いて適当に答えている。



なかなか相手の立場に立つって難しいものだ。